芳醇な古酒を生み出す伝統的テクノロジー「仕次ぎ」
泡盛を紐解く上で決して避けて通ることのできない古酒。古酒と聞くと、ただ単に泡盛を長期間寝かせておけばよいというイメージを持たれるかもしれないが、実際はそうではない。
では、泡盛特有の風味を損なうことなく、より味わい深い古酒として“育てる”にはどうしたらよいのだろうか? 沖縄には、芳醇な古酒を生み出すワザが琉球王朝時代から現在に至るまで継承され続けている。その手法が「仕次ぎ」と呼ばれるものである。この「仕次ぎ」こそが、100年〜200年にも及ぶ古酒を生み出す最も重要なファクターとして機能しているのだ。
ひとくちに「仕次ぎ」を解説するのであれば「注ぎ足しの妙技」とでも表現できるだろうか。年代を重ね、味わいを濃くした古酒(親酒)に、新しく若い瑞々しさを伴った古酒を注ぎ足していくのがその基本的なやり方。親酒に2番酒を、2番酒に3番酒を、最後の酒に新酒を、という順番で甕ごとに「仕次ぎ」を施していく。それを正月や誕生日といった記念日に合わせて、一年に一度、絶妙な割合で繰り返していくのだ(汲み出す量は総量に対して5〜10%以内が望ましいとされている)。この「仕次ぎ」により、味を損なうどころか、熟成を積み重ね、旨味がまろやかに舌に絡む絶品の泡盛古酒として育っていくのである。ちなみにこの「仕次ぎ」は沖縄の泡盛の他にはスペインで飲まれているシェリー酒だけが共通しており、世界的に見ても非常に珍しい。
沖縄の特に名家と言われた一族においては、年代物の泡盛古酒の甕を古い順から6つほど用意して、飲み継いでいったという歴史もある。最も古い甕の酒を少しずつ味わい、汲み取った分に対し、2番甕〜3番甕と順番に注ぎ足していくという循環はその一族の連綿とした繋がりを物語るかのようだ。さらには、家族を大切にするウチナーンチュの資質とも軽やかにリンクしていく。また、汲み取り、注ぎ足す分量によって、少なからず味の変化に影響があることを踏まえると、家族ごとにそれぞれの古酒の味があるのを想像するのも楽しい。ある意味では古酒は一族の味とも言えるかもしれない。
“寝かせる”どころか、注ぎ足しにより酒を目覚めさせ、まるで新たな息吹をもたらすかのような「仕次ぎ」。まさにそれは沖縄の泡盛古酒という唯一無二の酒を生み出すために発明された伝統的なテクノロジーであり、先人たちが辿り着いた貴重な知恵なのである。